エメラルドの祝福~願えよ、さらば叶えられん~

「いいえ、私を陥れたのはヒューゴ様です。……姉さま、ヒューゴ様はたしかに最初、姉さまを愛していたかもしれない。でも、いつの間にか欲に負けてしまったの。どうかもうヒューゴ様のことは忘れてください。彼では、お姉さまを幸せになんてできません」

痛々しい表情で、姉を心配するベリルに、シンディは息をのむ。
この状況で人のことを気遣える余裕があることに、驚きを隠しきれない。シンディは再び妹への認識を改めさせられた。


「とにかく城に行こう。すべての取り調べをしてから、沙汰を出す」

滔々と語るローガンには王者の風格があった。その場にいるすべての人間が、彼の言葉に従い、動き出す。

「ローガン様、感じが変わったわね」

驚いたようにシンディがつぶやく。まだローガンとダレンの入れ替わりについて、シンディには説明していなかったことを思い出した。

(そうだ。本当のローガン様はこんなに美しい容姿で、心根もお優しい人。本当に……素敵な……)

神々しいほどの姿を目の当たりにして、ベリルは自分の立場を思い知った。

彼はベリルに愛していると言ってくれた。さっきは、心がつながったとたしかに感じた。
けれど彼は対外的には姉の婚約者であり、誰が見ても、彼に似合うのは、地味でおとなしいベリルよりも、シンディのほうなのだ。

彼の隣に立つために、できることは何でもする。
それでも、自分はほかの人からローガンの妻としてふさわしいと思ってもらえるのだろうか。不安が胸に沸き上がり、ベリルは言葉少なになって歩き出した。

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