エメラルドの祝福~願えよ、さらば叶えられん~
「本当だ、これはすまない」
美しい所作で頭を下げる男に、ベリルは不思議に思う。
怖い顔をしているし、服装も薄汚れていてとてもじゃないが貴族とは思えないが、態度や言葉遣いが紳士的で教養があるように感じたのだ。
「そうよ! 本来あなたなんか触ることのない身分なのに。ああもう! やっぱり馬車でこれば良かった」
ブチブチと文句を言っているシンディを横目に、ベリルは自分のハンカチを差し出した。
「いいえ。服は洗えば綺麗になります。今日は夜会があるので、怪我をした方が大変でした。本当にありがとうございます」
「あ、ああ。しかし、その、……すまない」
再び謝る男の手に、ベリルはハンカチを無理やり渡した。
「良かったら使ってください。それと、あまりものなのですが、……メリークリスマス」
孤児院の子供たちに配ったマドレーヌの残りだ。シンディと一つずつ残して、こっそり食べようとしていたもの。
「もうっ、行くわよ、ベリル!」
シンディが腕を引っ張ったので、薄汚れた男とはそこでお別れとなった。
「もう、シンディ姉さまったら、名前を聞きそびれたわ」
「聞く必要ある? お礼ならハンカチとお菓子で充分よね? それとも、そのコートの洗濯代が欲しかった?」
「まさか、いらないわ。これはだいぶ古いコートだからいいのよ。新しいコートもお父様からいただいたばかりだし」
それもシンディと交換する約束をしてしまったが。まあ、子供がつけた手あかの汚れくらいならばすぐ落ちるだろうから気にしないことにした。
「そうね。それより、早く準備しないと、夜会に遅れるわ」
「そっちのほうが大変ね」
ふたりは頷きあい、足早に屋敷までの道を歩いた。