エメラルドの祝福~願えよ、さらば叶えられん~
その日はアシュリー伯爵家の夜会だった。
冬の王都では、タウンハウスで冬を越す貴族たちが交互に夜会を開いているのだ。
アシュリー伯爵はブラッドリー侯爵の職務上の部下にあたるので、夜会となれば常に呼び合う間柄だった。
そんなわけで、アシュリー伯爵家の夜会への参加はふたりともすでに慣れたもので、嫡男である十八歳のヒューゴともすっかり顔見知りだった。
広間に入ったと同時にシンディは友人たちに囲まれ、あっという間に中央へと連れていかれる。ぽつりと残されたベリルがため息をつくと、目の前に掌が差し出された。
「やあ、今日はようこそ。ベリル殿」
「ヒューゴ様。お招きありがとうございます」
「ゆっくりしていって。母上たちも別室を用意しているようだから」
結婚前の娘たちが夜会に出るときは、母親なり既婚の兄弟なりがお目付け役として付くものだ。
例にもれず、ベリルとシンディの母親も出席しているのだが、慣れたアシュリー伯爵家ということもあって、最初から放置状態である。
「ヒューゴ、ちょっと来てくれないか」
友人に呼ばれ、ヒューゴはベリルに「ごめんね」と言って去っていく。
しかし、ちゃんと声をかけに来てくれたことが嬉しくて、ベリルは顔をほころばせた。