エメラルドの祝福~願えよ、さらば叶えられん~
ヒューゴは初めて会ったときも、シンディの陰に隠れていたベリルを見つけてくれた。
「シンディは華やかな薔薇のような美しさ。ベリルはスノードロップのように可愛らしいね」
そう言って笑ってくれたときに、ベリルはヒューゴに恋をした。
だけど、彼を目で追うベリルは、彼が見つめているのが誰なのかも知っている。
誰に対しても笑顔で感じのいい彼は、姉のシンディの前でだけ、男らしくキリリと口もとを引き締めるのだ。
「……仕方ないわ」
シンディのことは誰でも好きになる。
美しく快活で、自分の気持ちに正直で、屈託なく誰とでも話す。
ベリルだって、叶うならシンディのようになりたかった。
夜会が始まり、誘いに応じるシンディを横目に、ベリルは軽食をつまんでいた。
ダンスが苦手なベリルは、夜会では食事に興じているほうが多い。
アシュリー伯爵は美食家で有名で、今日もサンドイッチやチキンといった手でつまめるような定番の料理に加え、見たことのない食材が並んでいる。
ベリルはそれをつまみながら、ひそかに頬を緩ませるのだ。
「いたいた。ベリル。またこんなところで」
「ヒューゴ様」
「君も踊ろう? シンディの妹はいつも気が付くといなくなるって俺の友人たちもよく言ってるよ」