水鏡~すいきょう~
今、幸太が働いている編集社『透陽社』は、遙が社長の小さな編集社だ。
元々、大学時代のサークルが発端の編集社で、都市伝説の検証を記事にしていた。
バカ売れする事は無いが、安定した売れ行きのある雑誌で現在に至る。
幸太は遙とは違う大学に通っていたにも関わらず、遙のサークルに入り浸り、就職活動もせずに遙の編集社に無理矢理バイトとして置いて貰っている。
元々、幸太の父親は幾つかの会社を経営していることから、遙は幸太が遊び半分で働いているのだろうと社員にはしていない。
なので、事務職はサークル時代からの仲間3人で回していて、幸太はPCオタクな事からPC関連の事を扱っているのみだった。
そんな中、会社組織にした時に、遙がフリーカメラマンだった冬夜を社員として連れて来たのが3年前。
冬夜のカメラの腕は確かで、個別にグラビア等の写真も担当している。
少ない売上でも赤字にならないのは、冬夜のお陰であるのを幸太も分かっていた。
ただ、それでも頭と心がイコールにはならない現実がある。
そして幸太が何より気に入らないのは、事務職の人が居るのに、資料探しや写真の整理。
機材の管理を全て幸太に押し付けるのだ。
だから余計、冬夜に当たってしまう。
「あのさ...」
ぼんやり考えていた幸太に、遙がゆっくりと話始めた。
「冬夜はさ…多分、社内で1番幸太を買ってるんだよ。
あいつの機材、私には絶対に触らせないよ。それだけじゃない。
写真だって資料探しだって、あいつが頼めば他の事務さんは喜んでやってくれると思う。
でもね、冬夜は幸太にしか頼まない。何でか分かる‍?」
遙の言葉に、幸太は重い口を開けて
「馬鹿にしてるからでしょう」
そう呟いた。
すると遙は大きな溜息を吐くと
「逆だよ、信頼してるんだよ」
と答え
「あいつのカメラ、お世話になった方の形見なんだ。
だから、やたらめったら人に触らせない。
1度、私が触ろうとして怒鳴られたんだよ」
そう言いながら、悲しそうに小さく微笑んだ。
「遙先輩...」
冬夜の話をする遙は、いつも苦しそうで幸太は悲しくなる。
別に遙が冬夜を好きだから冬夜を嫌いな訳じゃない。
遙をこんなに悲しそうにさせている冬夜が許せないのだ。
「冬夜はいつも、幸太の仕事は丁寧で綺麗だって褒めてるよ。
私に、もっと幸太を認めてやれって...」
遙はここまで言いかけて、言葉を飲んだ。
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