先輩の恋人 ~花曇りのち晴れ渡る花笑み~

二人の時間


漸く仕事も落ち着き、久々に早く帰れる金曜、花笑と食事をして俺の家に連れ帰ってきた。
なぜか緊張気味の花笑。

「あの、こうくん?」

ソファーに座ったが考え事をしていて、沈黙に耐え切れなかったようで呼びかけられた。
花笑の顔を見てこの間思っていたことを切り出す。

「花笑、その、こうくんってのやめないか?」

「えっ?‥なんで?」

「わざわざ違う呼び方をしなくても俺はもうお前のものだ。この年で君付けも憚られる。それに…」

目を逸らし、小さく呟いた。

「あいつと同じ呼ばれ方と思うとなんかムカつく…」

「あいつ?」

何の事だかわからない花笑はキョトンとした顔で首を傾げる。
はぁとため息をつき白状する。

「日野だ。日野晃平。あいつもこうくんとか呼ばれてるらしいから、お前があいつを呼んでるみたいで…」

「あっ日野君?そういえば…いつも名字で呼んでたから気が付かなかった」

なるほどと納得顔の花笑に押し迫る。

「…だから、名前で呼べ。」

「あ、でも、ずっとこうくんって呼んでたから、改めて名前でとか…なんか恥ずかしい‥」

恥ずかしがってそっぽを向く花笑。そっと手を伸ばし掛けてる眼鏡をはずしテーブルに置く。
赤くなる顔を、両手で包んで無理やりこちらに向かせた。

「お願いだ。ちゃんと名前で呼んでほしい」

真摯にお願いをし見つめると、恥ずかしそうに目を合わせ、

「わ、わた・・る・・さん?」

と、疑問形。

「ちゃんと、もう一回」

「航さん‥」

「もう一回…」

「航さん…大好き」

何度も駄々をこねるように呼ばせると、目を潤ませにっこり笑う花笑に何とも愛しさがこみ上げる。
見つめ合いゆっくり顔を引き寄せ唇を合わせた。
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