先輩の恋人 ~花曇りのち晴れ渡る花笑み~

欲しいものは・・・

航said
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拗ねて掃除をしていた花笑。
チラチラ見える横顔が、怒っていたり、沈んでいたり、赤面していたり……
今は上機嫌で鼻歌まで歌ってる。
可笑しくて気付かれないように笑った。
百面相のようにくるくる回る表情に気を取られて、さっきから手に持ってる資料が頭に入らない。

欲しいものか…。
俺の誕生日が近いからそんな事を聞いたんだろう。
さりげなく聞いたんだろうがバレバレだな。

別に欲しいものなんてない。
そう答えようと思った時、ふと思った。

花笑が欲しい。
今、花笑といるこの時間がずっと続けばいい…。



4日前、

ひったくりに激突された花笑を咄嗟に支え、ぶつかる前に庇えなかったのを悔いながら、犯人を捕まえるために追いかけた。

待てこらっ、花笑にぶつかりやがって!

曲がり角で追い付き揉み合い、体勢を崩したと思わせ背負い投げをした。
子供の頃から習ってた柔道は、久しくやってなかったが難なく出来るものだな。
投げた時ちょっと手首を捻った気がしたがまあ大丈夫だろうと手をブラブラ振った。
追いかけて来た花笑に抱き付かれ「無事で良かった!」と言うから「俺は弱くないぞ」と強がってみる。

その後警察署に行ったりしてる内にじわじわと左手に痛みが出てきていた。
やっぱりさっき捻ったか…。
そんな重症とは思わずに家に帰り、腕時計を外すと少しの傷と腫れているがわかった。
時計も割れてしまったが仕方がない。

自分の痛みより花笑が怪我してないか気になり、花笑の手を取り自分の隣に座らせ確認しようとした。
暴れて後ろに倒れそうになったのを支えたら、ズキッと痛みが走った。
何でもないと言ったもののズキズキと先ほどよりも痛みが大きくなり、

「何でもないわけない!」

と怒って隣の部屋に逃げ込んだ花笑を追いかけることができなかった。
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