先輩の恋人 ~花曇りのち晴れ渡る花笑み~

「いいんじゃね?海斗が継げば。やる気ある奴がやった方がいいだろ?海斗は料理のセンスもあるし、今時長男が家を継がなきゃってこともないだろ?」

「でも航……」

不穏な空気に黙ってしまった俺。
その頃高1だった兄貴は既に父さんの跡を継ぐため店にも出て手伝っていた。
兄貴も料理は得意だ。まだお客さんに出せるほどじゃないが寿司も握れる。
俺はまだ握らせてもらえないけど。

「俺より絶対海斗の方が向いてる。…考えてたんだけど、俺大学に行きたい。ここから出てもっと広い世界で自分の生きる道を探したい。継ぎたくないって訳じゃないけど、海斗がやる気なら俺も挑戦してみたい」

真剣な顔で話す兄貴に、黙る両親。
俺は言ってはいけないことを言ってしまった…?

「海斗…」

ため息をついて父さんが重い口を開いた。

「お前は本気なのか?家を継ぐことに。お前は次男だから、将来航を助けてこの店に貢献してくれたらとは思っていたが、好きなことをしてくれればいいと思っていた。本気ならこれから店も手伝わせるし、寿司屋は簡単にはなれないぞ。何年も修行するんだ。できれば調理の専門学校にも入って基礎知識を叩き込んでほしい。お前が思っているほど甘くはないぞ」

「俺がするはずだったことを海斗がすればいいんだ。根気はいるが難しいことはない」

二人に言われもう一度考えてみる。
俺の将来…。

< 209 / 272 >

この作品をシェア

pagetop