【完】さつきあめ
泣くもんか。

たとえレイと比べられ、自分がどれだけ出来ない人間かと知らしめられようが、ここで涙を流してなるものか。ちっぽけなプライドを抱えていたのは、わたしだってレイだって同じだった。

「だからレイはレイでいいし、さくらはさくらでいいじゃない」

張りつめていたものを断ち切るかのような、深海の言葉にゆっくりと顔を上げる。
最初は怖いから苦手だと思っていた深海の鋭い瞳が、優しく、困ったように垂れ下がっている。

「でも、あたし…レイさんのようにしなきゃって…
レイさんのようにならなきゃレイさんに勝てないって」

「さくらはレイのようなキャストにはなれないよ」

「わかってます…そんなことは…あたしじゃレイさんにかなわないってことくらい…」

「違うよ。
レイのあれは完全な色恋だろ。色恋は客もつくし、落とす額も全然違うかもしれない。
でもやり方を間違えば、自分さえも滅ぼす…自滅してる女の子何人も見ているよ。
レイのやり方がそもそもさくら向きではないってことに気づけ…」

「あたし、向きではない?」

「レイとさくらは表と裏。ひかりと影みたいな感じかな、俺の中では
お前とレイとでは持ってる客層も、そもそも好かれる客層も違いすぎるんだ。
それに気づかずにレイの真似ばっかりして接客してるなら、お前も自滅するだけだぞ?そもそもお前の客はお前にレイみたいな接客を望んでいない」


「でも…
それじゃあ…」

「それじゃあ、レイに勝てない、ってか?」

まるでわたしの心を見透かしたように深海が言う。

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