【完】さつきあめ
何も言えなくなるわたしの肩を数回深海が叩く。

「お前がレイになれないように、レイもお前には絶対になれない。
それならば、お前はお前のやり方でナンバー1になればいいじゃないか」

「え?」

顔をあげたら、なおも深海は優しく微笑んでいる。
お前はお前のやり方でナンバー1になればいいじゃないか。そう深海は口に出して言った。

「でも、あたし…レイさんと自分を比べてばっかりで…」

「比べてるのはさくらだけじゃないよ。レイもだ。
あいつもさくらばかり意識して、大切なことを忘れてる。
このままだったらレイは自分で自分の首をしめて、自滅するだけだ…」

「それって…」

優しく微笑んでいた瞳が、悲しく遠くを見つめていた。

「さくらは言えば理解ろうとするし、素直だからそのままの言葉を呑み込んでくれる。
でもあいつは…レイはそうじゃないから。
あいつは近いうちにダメになるよ。その証拠に今日山岡さんが切れた。自分でもあいつわかってるだろ。わかってて認めたくねーんだ、あいつは」

今日、確かに山岡の様子はおかしかった。
けれど、深海の言っていたことに間違いはなかった。

「レイさんって」

「レイのやり方は色恋営業だけじゃない…。あいつ枕してるだろ…」

「枕って…!」

つまりは客と寝て、売り上げをとっているということだ。
けれど一度でもそれをやってしまえば、噂になるのも早い。

「レイはさ、そんな事しなくても全然この仕事の才能はあるやつなんだ。それでもそういう道を選ぶってことは相当お前に負けたくないし、お前を脅威に感じてるんだよ」

「レイさん…どうしてそこまで…」

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