【完】さつきあめ
一緒にいたい。そう言われて嬉しかったのに、病室で涙を流していたレイの顔が浮かんできて、素直には喜べなかった。
それに振った女の肩に顔を乗せたり、一緒にいたいなんて言うなんて、ずるいよ。

「無理だよ…。レイさんは待ってるし、あたしは深海さんと一緒に帰る…」

「夕陽は俺と一緒にいたくない?」

肩に乗せていた顔をあげ、こちらを見上げる。
本当にずるい男だと思う。
最初に拒んだのは、光だ。

「そりゃ一緒にいたいよ…。
でもあたしの気持ち知っててそういうこと言うのずるい…。
どっちにしても今日は帰るよ。ごめん」

光の体を引き離すと、子供のように傷ついた顔をした。

「そうだよな…。なんか俺…ごめんな?」

「じゃあね!」

顔も見ずに振り払うようにその場を走って去る。
光には彼女がいる、光には好きな人がいる。ぐるぐると頭をめぐる。
彼女がいるくせにわたしと一緒にいたいなんて言うなんて、なんてずるい人。それでもなおも思うことと言えば、光を好きな気持ちが止められない。

息を切らし、深海の待つタクシーに乗り込んだ。
タクシーの中はやんわりと温かい暖房がついていた。もう秋も終わりを告げようとしていた。

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