【完】さつきあめ
けれど次の瞬間、レイはそれを強く否定した。
そのまなざしは真剣そのもので、馬鹿にしたり、茶化したりしているのではないとすぐにわかった。

「でもね、だからこそダメだと思う。さくらちゃんと光が惹かれあったら、絶対に光が色々なものに押しつぶされてしまう」

「どうして…」

「なんて、これ、勝手なレイの妄想だから!
なんかくだらない話で引き止めてごめん!
突然さくらちゃんに話を聞いて欲しくて」

病室から出て、レイの言っていた言葉がこだまする。
さくらちゃんと光が惹かれあったら、絶対に光が色々なものに押しつぶされてしまう
関係ないのに、朝日の顔が思い浮かんでは消えた。
背中に冷たいものを感じる。

「夕陽!」

病室から出て、帰ろうとするとそこには光の姿があった。
慌てて来たからだろうか、光はひどく疲れた顔をしている。それでも笑顔を作っていた。

「あ、光。あたし帰るね!レイさんについててあげて!」

「待って!」

光はわたしの方へと駆け寄ってくると、肩にゆっくりと顔をうずめた。
途端に光の匂いが全身へ広がっていく。
抱きしめたい気持ちでいっぱいだったけど、この手で掴んでしまえばすべて崩れていくような気もした。


「つかれたー…」

「おつかれさまです」

「夕陽にこうやってると落ち着く…」

「大丈夫?本当に疲れてそうだね?」

「うんー、あのさ、夕陽、ちょっとレイのところに顔出したら戻ってくるからちょっと待っててくれない?…一緒にいたい」

< 148 / 598 >

この作品をシェア

pagetop