【完】さつきあめ
‘有明は誰にでもいい顔すんだ。女とあらばな’

あの日の朝日の言葉をそのまま受け取るほど愚かではない。
そんな言葉よりよっぽど恐ろしかった言葉がある。

‘お前が有明を好きになればなるほど、あいつをお前自身が苦しめていくんだ’

力強い瞳と強引なあの人が最後に言っていた言葉。確信めいて言っていたあの言葉の方がずっと恐ろしかった。
光を強く好きと思えば、光の苦しむ顔ばかりが思い浮かぶからだ。光はいつだって、わたしの気持ちに困った顔をしてみせるばかりだったから。

「ありがとう! このままだったら今月ナンバー1になっちゃうかもー」

ふざけながら言うと、光はいつものようにわたしの髪の毛をくしゃっと撫でて、目を垂れ下げながら笑う。

「さくらが人気者になっちまったら、嫉妬しちまうなぁ」

「あはは、頑張りますよー!あたし!1番になったら社長に何か買ってもらっちゃおうかなぁ~」

「何でも買ってやるよ」

「えー、本当に?洋服に~、靴に~、アクセに~、新しいバックも欲しいし、本当に迷っちゃうなぁ~」

「さくらが欲しい物なら、何でもあげるよ」

光はもう1番になんかならなくていい、とは言わなかった。
何でも買ってあげる、と冗談って言っていたけれど、欲しい物なんか言葉で並べてみただけで、何ひとつなかった。
あるとするのなら、それはお金では買えない物。

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