【完】さつきあめ
「ん~、どんな部屋かぁ…」

わたしは今住んでいるボロアパートを出ていくことを考えていた。
光に見せるのが恥ずかしくて、けれど光は決して笑わなかったあの家。
交通も不便だったし、何よりセキュリティーが不安だった。

この間お客さんに住んでる家バレて怖い思いした。この間はるなと会った時に話していた事を思い出していた。

「なるべく駅近がいい!
間取りは2LDは欲しいかなぁ。あとね出来るだけ高い場所がいいの!
高いところから街を見下ろすのが好きだから!」

「さくらちゃん稼いでるねぇ~!」

ふと、1回だけ行った光の家を頭の中でイメージしている自分がいた。
そんなところまで光の事を考えてしまう自分に失笑してしまう。

それでもわたしはそんな希望が通りそうなマンションに住めるくらい稼げるようになっていたし、年が明ける前には引っ越しをしたかった。新しい環境に身を置き、新しい気持ちで新しい年を迎えたかった。

「さくら、次、6卓ね。
指名かぶりまくってるから、あんま長居できないけど」

お店に入ってから、忙しそうに高橋が動く。

「りょーかいでーす!
さすが週末~賑わってるねぇ~!」

「呑気な事言ってんなよ?お前が1番指名かぶってるんだから」

「あら、あたし人気者っ」

「てか、後でフリーの卓も10分だけ呼ぶから」

「フリー?」

「今日はすごい人が来てるんだよ」

「すごい人?」

「ちょっとここらでは有名な飲食店を何店舗も経営してる社長さんだよ」

「そんなに有名なの?」

「有名、有名、超お金持ち!うちのお店じゃあ、小笠原さんよりお金持ってる人かもなぁ~、しかもまだ33歳らしいよ」

「小笠原さんより?!」

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