【完】さつきあめ
「まぁ昔話はおしまいだ。さ、お客さんが待ってる。行くぞ」

「待って、深海さん!今……さくらさんは」

「今は遠くにいるよ」

それ以上は、どこにいるかは聞くな、と深海の背中が無言で語っていた。
だからそれ以上はもう何も聞けなくて…。
深海と光の過去。朝日の元彼女。光と綾乃の関係。
全部バラバラなのに、何故か全部繋がっているような気がして。

「…くらちゃん?」

「あ、ごめんなさい!」

「ぼぉーっとしちゃってどうしたのー?」

やばい。今は目の前にいるお客さんに集中しなきゃ。
余計な事を考えている時間はない。
今日は飲みましょうーなんてグラスを掲げながらも、綾乃の席へちらりと視線を落とした。
高級ボトルが並べられたテーブルを前に、優雅にお酒に口をつけている。
指名数は同じくらい。でも空いてるボトルの数が全然違う。
締め日という事もあってか、綾乃がいないテーブルでも、惜しみなく高級なシャンパンやワインが次々と空いていく。
内心焦っていた。

小笠原は今日もうお店には来ない。
綾乃とナンバー1争いをしていると知っている唯一の人だったから、締め日はもちろん来てくれると予想していた。
けれど予期せぬゆりとの来店。
もしかしてゆりは全部知ってて、わざと今日という日を同伴に選んだのかもしれない。けれどそれも今更考えても仕方のない事。

< 228 / 598 >

この作品をシェア

pagetop