【完】さつきあめ
「俺だって男だし、さくらちゃんにお金を使う事に何の目的もないわけじゃないよ。
俺は君に惚れてるし、自分の女にしたいって正直思ってる」

桜井の本音を初めて聞いた気がする。
どんなに良いお客さんだって、応援してるって言ったって、無償で何かを捧げられるわけがない。

「何も見返りがなく、大金を使うのが怖い?
じゃあ取引をしよう」

「取引?」

「君が俺の女になるっていうなら、この先ずっと君をこのお店のナンバー1に俺がしてあげる」

それは全てをお金で支配するということだ。
とてもシンプルな要求だと思った。
お金も地位も名声も全て持っていて、少しだけ光に似ているこの人に身を預けて、たったそれだけ。簡単な仕事。
黙って自分の気持ちを押し殺せば、綾乃に勝てる。

何もしなければ時間は刻刻と過ぎていくだけ。
綾乃の席で、シャンパンの空く音がした。
ちらりと横目でそれを見ると、いま桜井が開けた数と同じだけのシャンパンが空いていた。

「どうする?」

目の前に置かれているシャンパンを、そのまま一気に飲み干した。
それを見て、桜井は驚いた表情を浮かべていた。それでも一本、また一本と全部そのまま飲み干していく。
芋焼酎が好きだと言っていた、飲みたくもないシャンパンをおろして、湯水のようにお金を使う事に本当に意味があったとは思えない。

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