【完】さつきあめ
目の前にいる人が本当に望んでいる事も、わたしが自分の女になるということだとも到底思えなかった。

「ちょ、さくらちゃん…大丈夫?そんなに一気に飲んで…
心配しなくても飲んだら同じの追加していいから」

「あたしがあなたの女になる、それが本当にお望みですか?」

「え?」

「どんなにお金を持っていたって、家庭は破綻してるって言っていた桜井さんは寂しそうでした。あなたが本当に求めてるものはあたしじゃないって事はわかります」

誰もが寂しいし、その寂しさを埋めるためにこうやって飲みにきてるかもしれない。
でも、きっとこの人はいくらお金を使おうが、わたしを支配できたとしても寂しいままだ。
今の桜井のお金の使い方は、あの日わたしをナンバー1にしてやるって言った朝日と同じだった。

「これ以上お金使わなくていい!帰ってください!」

こんな事をいうなんて、キャバ嬢失格だ。
でも、わたしは何となくこの人が寂しかったのに気づいていたし、それを利用していた。
けれど、もうこれ以上は無理だ。
いくらお金を使っても、わたしを手に入れたとしても、この人の空虚を埋めることはもうわたしには出来ないだろう。

太い客を失った。

「あほか、てめぇは」

高橋の罵声が聞こえる。

一気にシャンパンを飲み干して、バックでうずくまる。
あほなのは自分でもわかってる。


「綾乃さんともう少しの差なんだよ?!もーちょっとうまくやれよ!勝ちたくないのか?」

「勝ちたい、でも無理なもんは無理…。とりあえず、今来てる指名の席はこなす」

深海は無言で、パソコンと向き合う。
高橋はなおもわたしに文句を言い続ける。
その時、深海のインカムに連絡が1本入った。
もうお店も閉店間近の時間だった。

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