【完】さつきあめ
それを思えば、毎月のように驚くほどの売り上げを伸ばし、七色グループの1番を守り切っているゆりはどれほどの恐怖だったのかは計りしきれない。
朝日という恋人がいて、ナンバー1に固執する必要もないくらい、望めば自動的に彼から裕福な生活を約束されている身でありながら、ナンバー1を守り続ける意味。
勿論、彼女がこの仕事に対する意地やプライドもあったのかもしれないけど
‘さくら’と言う名を持つ朝日の昔の恋人への執着が1番だったのではないかと思う。

深海も、小笠原も、わたしに似ているとこぞって言った。
でもそれは果たして本当にそれだけだったのだろうか。

朝日がわたしに執着する理由も、ゆりの潰したくなるほどの憎しみも、そこにはもうこの世にはいない‘さくら’という存在が影にあって、たまたまわたしがさくらという源氏名をあの日選んだ事によって、錯覚してしまっているだけなのではないか、と。

どんな事情があるにせよ、深海と朝日にとってさくらという名を持つ女は特別な人だった。
そこに1つの疑問が浮かび上がる。

光は、さくらを知っているだろうか。
いや、存在を知っているのは確かだろう。わたしが知りたかったのはそんな事じゃない。
皆の物語の中心にいるさくらを、光はどう思っていたのだろうか。
わたしがあの日、さくらになった日に、何を感じ、どう思ったのだろうか。

綾乃…。
綾乃とは。

「あら、さくら、おはよう」

「綾乃ちゃん…!おはよう!」

「新しくなったビルの看板見た?」

「うん」

「何であの写真使うのかしらねぇ~。あたしも、さくらも。あれを選んだ人の気が知れないわぁ。センス無さすぎ…」

パソコンの前でカップラーメンを食べている深海がぶっと吹き出す。

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