【完】さつきあめ
「あー、お前たち、うるさい。俺は仕事してんの!
さくら、看板は来年になったら新しく変えるってのがうちのグループの風習っていうだけだ。これから同伴だろ?急がないと遅刻するぞ?」
半ば強制的にお店を追い出される形になる。
深海も綾乃も、光も恐らくすべて知っていた。
この時まで、何も知らなかったのはわたしだけで、わたしが全てを知るのはいつも全部の物事が決まってからだった。
「わぁ、さくらちゃんがいる」
同伴していたお客さんがビル前に着くとそれを見上げながら言った。
「ちょっとやめて~…。それ綾乃ちゃんも言ってたんだけど、写り悪いでしょ?」
「そんな事ないよー実物も写真も綺麗だよ!
それにしてもさくらちゃんはどんどんすごい女の子になって段々遠くなってく感じがするよ」
「そんな事ないよー!あーそれにしてもあんなかっこつけてる写真嫌だー」
クリスマスムードに包まれた街は賑わいを見せていた。
誰もが幸せそうに見えていたけれど、この賑やかなムードの下で、何人の人が影で涙を見せていたのだろう。
12月は走り抜けるような忙しさだった。
余計な事を考える暇など、ないほど。かえってその方が楽だったし、余計な事を考えずに仕事に打ち込めた。
仕事に行って、アフターをして、帰ってきて、寝てまた同伴。その繰り返しの毎日の中で、お店の顔であるナンバー1というプレッシャーも少しはあり、エステに行ったり、美容室にネイル。24時間が営業のようなもので、気の休まる時間もなかった。
キャバ嬢大変だなって改めて気づいたのはナンバー1になってからだった。
クリスマスもクリスマスでコスプレが義務づけられていて、美優と一緒に衣装を選びに行ったりもしていた。