【完】さつきあめ
「昨日は、ありがとうな」
「え?」
「ケーキとか、誕生日祝ってくれようとして、ありがとう」
「宮沢さんから素直な言葉が出てくると怖いです…」
「あさひくん、おたんじょうびおめでとう、とかテレビでしか見た事のねーようなガキの誕生日ケーキ見て、本当に嬉しかった。母親が生きてたらあんなケーキ買ってきてくれてお祝いしてくれたのかなって…」
「宮沢さんのお母さんは…小さい時に亡くなったんですよね」
「あぁ。まだ俺が1歳の時だったらしい。
とは言っても生きてたとしてもテレビで見るような優しい母親じゃなかったかもしんねーけど。
なんせ俺の母親つーのは夜の仕事やってて、不倫して俺を産んだような人だったから。ま、そんな母親と同じ夜の仕事を結局俺もやってるわけなんだけど。血筋なのかな」
「お母さんも夜の仕事やってたんですか?」
何を言ったらいいかわからないわたしを前にして、朝日はくくっと自嘲気味な笑みを浮かべた。
それはわたしがうわべだけ見てきた頃の朝日の笑いと一緒だった。
「とは言ってもお前みたいなキャバ嬢つーもんじゃねぇぞ。俺の母親は風俗だったからな」
「風俗?」
「あの女は身体を売って生きてきたんだよ。
母親が亡くなってからは父親に引き取られたんだけど、あの人の俺を見る目は今も忘れられないね」