【完】さつきあめ

「俺がまた優しくしたらゆりはまた期待するだろ。
俺はもう好きじゃない女には中途半端な事はしたくない」

じゃあ、わたしがいま朝日にしてる事も。

「宮沢さんって全然正しくない生き方してるのに、実は正しい事ばかり言ってるんですよね…」

出来た目玉焼きとベーコンをお皿に並べながらそう言うと、朝日はきょとんと目を丸くした。

「俺はゆりが好きだった。それは嘘じゃねぇ。
遊んできた女は別として、今までの人生好きでもねぇ女とは絶対付き合ってない。
だからゆりに関しては好きじゃなくなった今でも、幸せになってほしいとは思ってる。今まで付き合ってきた女に対してもな」

「宮沢さんは自分の私利私欲のために…誰かと付き合った事はないんですか…?」

「なんだよそれくだらねぇ。俺は好きじゃない女とは付き合わない」

罪悪感が募るとすれば、憎んでいた人の本質を知った時なのだと思う。
わたしはこの人をずっと誤解していたのかもしれない。
朝日の実直さに触れれば触れるほど、自分がとても下らない人間なのだと、知らしめられる。

「おーうまそう、早く食おう」

出来上がったお皿を食卓テーブルに運ぶと、窓からは打ち付けるような雨粒が楽器のような音を奏でていた。

「天気雨じゃないの?」

「何言ってんだ?今日は90パーセント雨って天気予報でやってたぞ。
それより早くご飯食おう」

夢とは違う。
そうこれは現実だから。
目の前にいる朝日ももちろん現実に生きている。

美味しいな、と誰でも作れる目玉焼きやベーコンを口に運び、子供のように朝日は喜んだ。

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