【完】さつきあめ
わたしは光のやり方に反発して、朝日の七色グループに残った。
でもそれって、良い事なのだろうか。
携帯が鞄の中で震えている。微弱なバイブ音を刻んでいた。
誰からの着信かは何となくわかっていて、あの頃誰よりもわたしの心を突き動かして、誰よりも求めていた。
なのに何故わたしは今、彼の着信を、彼の想いを受け止めてあげられないのだろう。

わたしが違う方へ向けば、目の前にいる人が今にも消えてしまいそうだった。
まるでそのわたしの心なんて全部見透かされているような気さえした。

伏せていた瞳が段々と開いていき、わたしを掴んで離さない。

「さくらは、本当に優しいな」

朝日の視線がわたしには痛かった。

「人の上に立つ者は、どうしたって下の信頼が必要だ。
俺になくて有明にあるものがそれだ。
あいつは小さな頃から人から肯定され、必要とされて生きてきた。
俺がどうしても欲しかったものを、あいつは生まれながら持ってた。
あいつは、いつだって俺の欲しい物を譲ろうとして、生きてきた。
そのあいつが俺に牙を向けるなら、俺は…あいつに勝てないと思う…」

光が裏で朝日を支える影であるのならば、朝日は光り側の存在だと思っていた。
けれど本当はそれは逆だった。

人は幼いころの周りの評価によって変わるという。
全てが用意されていた光と、全てが奪われた朝日。強くあろうとするこの人の影にどうしても隠し切れない
それは劣等感だ。

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