【完】さつきあめ

伏し目がちで、煙草を片手に朝日がぼそりと呟いた。

「さくら、ありがとうな」

「それはさきほど、お店で聞きましたー」

お店で抱きしめられた事を思い出すと、照れ臭くなってしまうから、わざと茶化すように言った。

「いや、マジで。
俺、お前がいなかったら、もしかしたらもう全部投げ出してもいーやって気持ちになってたかもしれねぇし…」

「んな大げさな」

「本当だよ…。何かもう全部めんどくせーって」

「だって…来年には新しいお店も出すんでしょ?こんなところで止まってられないじゃないですか」

「新店か…。今の状況で出せるのかな。結局有明頼みのところがあったしな…」

煙草の煙を吐きながら、どこか遠くを見つめる。
やっぱりこんな弱った朝日を見るのは初めてだった。

「宮沢朝日らしくない!」

「へ?」

わたしが言うと、朝日は目を丸くした。

「いつでも強気でやっていくのが宮沢朝日でしょ?
あなたが弱っていると、あなたらしくなくて心配になる…」

朝日はいつだって王様みたいに、堂々と皆の前に立っていればいいんだよ。

はっと小さく笑い、煙草の煙を吸いながら、目を伏せる。
ひとつひとつ取る朝日の行動がいつもよりずっと弱弱しいから、放っておけなくなるんだよ。

「お前に心配してもらえるなら、ちょっとくらい弱ってもいいかもな」

誰だって弱い。
弱いところを人に見せるか、見せないかの違いなのかもしれない。
わたしだって弱いし、目の前にいる人だって、きっと弱い。

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