【完】さつきあめ
「俺だって…兄貴の良いところは沢山知ってる…」

「どこまでも自信家のあの人が、俺の片腕になれって俺を会社に引き入れた事も
親父の駒になんかなりたくないって俺が親父の会社を継ぎたくない事をあの人は知ってたから。
俺に腕時計をくれて、俺の居場所を作ってくれて、あの人は

俺に夢を与えてくれた…」

「夢?」

「俺はいつか自分の力で、お店を持ちたかった。
俺は俺だけの力で兄貴を越えたかった。でも結局は親父に頼ってしまって
そうでもして、俺は兄貴から夕陽を引き離したかった。

俺は、お前が思っている以上に、お前を愛してる…」

こんなに嬉しい言葉がこの世にあったのだろうか。
それでもわたしは七色を捨てる事も、何ひとつ持たず光の胸へ飛び込む事も出来なかった。

「あたしも光が好き。ずっと変わらないと思う。変わりたくないって思う。この気持ちだけは。
でもあたしは光のグループで働くことも出来ないし、光と結婚する事も出来ない。

あたしにはあたしの夢や目標があるから。七色グループにいて、まだ自分がするべき事をやってないから。
だから光にはついていけない…ごめん…」

光は全部わかっていたように笑いかけた。そして優しくわたしの頭を撫でた。

「変わりたくなくても人は自然と変わっていくもんだよ」

「光以上に好きになれる人なんてこの先現れそうにないよ」

光につられ、わたしも笑う。

「俺たちっていっつも平行線だよな。
好きなのに、お互い好きでも一緒にいられない理由がいつもあって、そんな遠回りしてるうちに
俺は1番大切な物を失っちまった…」

「失ったものなら取り返せばいい。本当に欲しい物だったら、どんな形でも掴めるもんだよ」

「はは、やっぱ夕陽は強くなったな。深海の言った通りだわ。
お前さ、知ってる?深海が俺についてこなかった理由」

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