【完】さつきあめ
一緒に並んでみたネオンの光り。
同じ物を見ているつもりでも、私たち、違う物を見ていたのだって何故今まで気づけなかったのだろう。
わたしの左手が、光の右手と重なる。
大好きだった、熱い体温。
それが身体中をすり抜けていって、消える。
何度消えていっても、抱きしめれば何度だってこの体温を感じる事が出来る。
だって、私たちは生きているから。
「俺は正直、お前をさくらと重ねていた…」
その言葉を、震える光の口元から出た瞬間、少しだけ安心した自分がいた。
それが光の真実だからだ。今までの光だったら重ねていないと嘘をついていたと思う。
光はどこまでも優しいから、自分の気持ちに嘘をついてでも、自分の気持ちを殺してでも、優しい人だったから。
「それでも…お前を好きだって言った気持ちに嘘はねぇ…」
ふぅーっと大きな息を吸って、光りの散りばめられた街へ吐き出す。
遠くのネオンがちかちかと光っている。
「光、あたし、七色は辞めないよ」
はっきりと光の方を向いて、言った。
どんな時だって、わたしから光は目をそらさずに、強い瞳でわたしを見つめてくれた。
大きく目を見開いて、眉を下げて微笑んだ。そうか、と消えそうな声で呟いて。
「あたしが七色を辞めなかったら、光はあたしが光じゃなくて宮沢さんを選んだと思うんでしょ?」
「それは…」
「光、嘘はつかないで。
光はきっとそう思うんだと思う。
おかしいね。光と宮沢さんが似てるなんて一度も思った事がなかったのに
今思えば光と宮沢さんってすごく似てるところがある。
あたしは一方的に宮沢さんを敵視していて、自分で何も見ようとせずに一方的に宮沢さんを悪と決めつけてきた。
でも光と会えなかった期間は、宮沢さんと会ってる方が多かった。
あたしは自分の目で宮沢さんを見て、宮沢さんのいいところも沢山知ってる」