【完】さつきあめ

「あなたのためじゃないしっ!」

「んなもんわかってるつの」

出来上がったオムライスとハンバーグをテーブルに並べ、朝日は涼を蹴り起こして
美味しいと何度も言って、わたしの作ったオムライスに口を運ぶ朝日。
何故だろう。朝日が嬉しそうな顔をすればするたび、わたしの心が痛んでいく。

「んじゃあな」

「あいよ」

「ほら、涼しっかり歩け!」

「眠てー…。今日おっさんち泊めて…」

「お前…この間もそう言って俺んち泊まったじゃねぇか…」

「うち遠いから疲れちゃうよー…。お願い~、泊めて~…」

「俺はお前の宿カノかよ…」

やっぱりお兄ちゃん。なんだかんだ言って面倒見がいいんだね。
今にも眠ってしまいそうな涼は、子供みたいに朝日の肩によりかかる。
気持ち悪ぃと言いながらも涼をしっかりと支える朝日。
やっぱり兄弟みたいだ、と僅かな笑みをこぼす。

「じゃあな、さくら」

「宮沢さん、ちょっと待って!」

「ん?」

涼を抱えて、朝日がこちらへ振り返る。
珍しく、機嫌のよさそうな笑顔を見せた。
わたしは、何故かその笑顔が真っすぐ見れなくて、少し視線を外したままだった。

「あたし、確かに七色には残ったけど、光を好きな気持ちは変わらないし
今度だって光と遊びに行ったりするし…それに…」

言い終える前に、朝日の手がわたしの頭をぽんっと優しく叩く。
見上げた朝日の顔はやっぱり柔らかい笑顔のままだから、わたしの胸はズキズキと痛みが止まらない。

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