【完】さつきあめ

「何作ってんの?」

「ハンバーグとオムライス。材料ほとんど一緒だし、この間食べたいって言ってましたよね?」

ぱあっと朝日の顔が明るくなるのを感じた。それはやっぱり、まるで小さい子供のようで。

「お前は俺が怖くないのか?」

「はぁ?」

野菜を刻む手が止まる。
それでも朝日はぼぉっとした目のままそれを見つめるばかりだった。

「こうやって俺がお前の家に来たり、俺んちに来るのが怖くないのか?」

「何いってるんすか…」

「涼がいるからってか?
俺がお前の口を無理やり塞いで、急にお前を襲うかもわかんないのに…」

出会った初めの頃、そんな事があった。あの時は心底怖かったし、嫌いだった。
朝日の言葉に、小さく笑う。

「あなたはそんな人じゃないわ」

わたしを見つめる瞳が大きく開き、そして段々と伏し目がちになる。

そう、わたしは知ってる。
この人がそんな悪じゃないということも。

「俺はお前が思ってるような人間じゃない。
引き離したのに、お前は結局七色グループに残って、あいつのところに行かなかった。
行けと言ったのは俺のはずなのに、俺はそれがすごく嬉しい。
矛盾してるよな」

ゆっくりと首を横に振る。
わたしは朝日のために、七色グループにいるわけじゃない。
誰のためでもない、自分のためにここにいる。
朝日のためじゃない。それなのにこの人はこんな嬉しそうな顔をする。

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