【完】さつきあめ

「さくらー、あたし今日アフターだから先に帰っちゃうけどほんとだいじょうぶ~?!」

「うん、あたしは気にしないで」

「そっか~、あんまり飲みすぎ注意ね!」

最近美優はアフターも同伴もずっと多くなった。
小林が春になったら辞めちゃうなんて勿体ないってぶつぶつ言ってて
それでも美優は「辞めます」とはっきりと言った。
なんだかんだ意志が強いんだ。ふわふわして、優し気なのに、どこか芯が強い。
迷ってばかりのわたしと大違いだ。

わたしがソファーで横になってると、その隣で菫が携帯を弄りながら鼻歌なんか歌っている。
朝日の元カノ。朝日と結婚したいと言っていた、ゆりにも劣らない美しさを持っている人。

「菫さんも帰っていいですよ…」

「やだー、あたしの事は気にしないでー。生活が真逆になって帰っても眠れないんだもん。
それより具合いだいじょうぶ?何か欲しい物あるならコンビニで買ってくるけど?」

美しい上に、中身まで優しい。
さりげない優しさをいつも持っている人だ。

「ほんと、だいじょうぶです。だいぶ具合いも良くなってきたし。
なんか今日はやけになって飲みすぎちゃった」

「なんか、やけになるような出来事でもあった?」

ごてごてに飾られていない、でも清潔感のある透明のマニキュアを塗った細い指が、わたしの髪を撫でる。
お姉ちゃん、みたいで安心感のある人だ。

「自分の問題なんです…。とある人に自分の気持ちに嘘をついてるって言われて」

「言われた言葉が図星だったから、辛くなっちゃった?」

「…あたしにも、もうわかんないんです…。
変わりたくないのに変わってしまう気持ちもあるって、自分の中で認めたくないだけなのかも…。
変わってしまう自分が許せないって…」

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