【完】さつきあめ

「あなたは、誰も傷つけたくないんだと思う。
誰も傷つけないで、皆が1番幸せな道を選びたいって思うから、自分の気持ちを後回しにしたり、誤魔化してしまうのかも。
でも自分の気持ちに嘘をつくのは辛いし、それが周りのためって思っても結局皆を傷つけてしまう事もあるわ」

「菫さん…
トリガーは楽しかったですか?」

やっぱり今日はどうかしてる。
わたしのために助言をしてくれている菫の言葉を遮ってまで、聞きたい事なんかじゃないのに。

「えぇ、久しぶりに男の子のやってるバーに行ったけど楽しかったわ。
若い子と話すのも久々だったし、良いお店ね」

「涼は…どうでしたか?」

「涼くんはすごく綺麗な顔立ちの子ね。
わたしを見て、1番嫌いなタイプだわ、って悪びれもなく言ってきた。
あなたたち仲がいいみたいね。さくらは元気ですかって心配してた」

「はは…涼らしいな
あいつはとりあえずキャバ嬢は全員嫌いって言うんですよ…」

わたしの頭を撫でていた手が止まる。
完璧に整った顔を下から見つめる。
眉毛を下げながら、困った顔をしたようにわたしに笑いかける菫は、やっぱり綺麗だ。

「あなたの聞きたかった事はそんな事?」

感情がこぼれだす瞬間は突然だ。
何気ない一言だったり、確信をついた真っすぐな言葉だったり
菫の目に映るわたしは、今、どんな顔をしていたのだろう。

「明け方まで飲んでたら、朝日が来た。
それに気づいた美優ちゃんが酔っぱらってからなのか、さくら明日社長とデートなのって口を滑らせた。
人が変わったみたいに怒った顔をして、涼くんに八つ当たりして、子供みたいに壁を殴って帰っていった
あなたが聞きたかった話はこんなとこ?」

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