【完】さつきあめ

光はネックレスを手に取り、わたしの首元につける。
息がかかりそうなくらいの距離で、硬直しっぱなしだった。
この夢のような出来事があまりにも現実感がなくて。

「夕陽が解けない魔法を使って、ずっと俺に夢を見させてよ」

「夢?」

光が曖昧に笑う。
光の…本当の夢はなんだったのかな…?
夕陽と優しくわたしの名を呟く光のあの日見せた切ない横顔の意味は一体なんだったのだろう。
あの時光が本当に欲しがっていたものは、お金や地位や名声とか、そんなものではなくて。もっともっと深いもので、そんな光の寂しさにも気が付いてあげられず、わたしは少し勘違いをしていたと思う。

光とわたしの見ていた夢も願いも全然違っていた。
お互い同じ場所で、別々の夢を見ていた。
決して交わることのなかった夢。
それでもさくらとして戦うことを選んだわたしに、光は何を思ったんだろう。

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