何度記憶をなくしても、きみに好きと伝えるよ。
「桜!」


病院の中庭のベンチに座り、涙を拭ってぼんやりと虚空を眺めていると、慌てた様子で詩織がやってきた。

どうやら、あの後すぐに私のあとを追いかけてきてくれたらしい。


「詩織……」


活力を削がれている私は、覚束無い声で言う。詩織は辛そうな顔をした。


「桜……大丈夫……?」

「……あんまり」


取り繕う気力もなかった私は、正直に言った。あんまりどころか、全然大丈夫じゃないけれど。

詩織は私の隣に腰を降ろし、しばらく黙ったあと、俯き加減の私をじっと見た。


「ーー大丈夫だよ。そのうち、記憶戻るから。そうしたら、中井くんは桜の元に戻ってきてくれるよ」

「うん……」


詩織の励ましに頷く私だったが、胸の中では不安が渦巻いていた。

本当に、いつか悠の記憶が戻るのだろうか。もしかしたら、このまま戻ることはないかもしれない。ーー一生、永遠に。

2人で過ごした日々も、「ずっと一緒にいよう」という約束も、最初から無かったかのように、消えてしまうのかもしれない。

嫌だよ、悠。そんなの。

ーー私を一人にしないでよ。


「それにしてもさ……なんなの、あの女! 事故にあって記憶がない中井くんにつけ込むなんて! 信じられない! 最低だよ!」
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