何度記憶をなくしても、きみに好きと伝えるよ。




「ーー美香から、全部聞いたの?」


私が病室に戻ると、悠は開口一番、そう言った。弱々しい笑みを青白い顔に湛えながら。


「聞いたよ」


短くそう言うと、私はベットの上で上半身だけ起こしている悠の傍らに立った。


「ひなげし病のことがわかったのは、夏休み明けすぐのことだった。今年に入ってから、夜眠っても昼間やたらと眠いことが多くて、夏休みが終わってから特にひどくなって。そんな様子を見かねた母さんが、俺を病院に連れていったんだ」


高校に入学したての四月から、悠はやたらと授業中の居眠りが多かった。最初は自由な人なんだなあ、くらいにしか思っていなかったんだけど。

9月に入ってからは、だるそうにしていることが多くて、私も心配になっていたほど。そんな時に、悠が交通事故に遭ったのだった。


「発症まで……俺が眠ってしまうまで、あと数ヶ月だって医者に言われたよ。だから俺は桜に早くその事を伝えて、別れようと思ったんだ。これから5年以上も眠っているだけの彼氏なんて、居たって意味が無いと思ったから。ーーだけど」


悠は私を見る瞳に、切ない光を込めた。


「できなかった。ーー桜と一緒にいる時間が楽しすぎて、幸せで。早く言わなきゃいけないのに、その時間を手放したくなくて。……それで、そんな風に迷っているうちに、俺は事故に遭って桜のことに関してだけ記憶喪失になってしまった」
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