【バレンタイン短編】同期から贈られたおまじないは、キス。

「ウワサをすれば……。ねえ、崇生くーんっ!」


同期が私の背後に手を振る。振り返ると柳田くんがこっちに歩いてきた。
柳田くんは手を挙げて、おう、と返事をする。

私は未だに彼を柳田くんって呼ぶ。明るく開けっぴろげな同期は、割と早い段階で彼を下の名前で呼んでいた。

どっちが幼なじみだか、端から見たら分からないかも。
そんな同期と柳田くんが会話を始める。


「崇生くん、栄転だって?」
「ちげーよ。ただの地方ドサまわり」
「否定しないってことは異動は決まりなんだ?」
「ああ……。でも黙ってろよ。告示はまだなんだから」
「ハイハイ。で、いつから?」
「今月末……かな。先方も人手がないらしくて」
「ふうん。急だね」


仲良く話すふたりはお似合いのように思う。由佳は人見知りすることなく、どの部署との社員とも話ができる。仕事もそこそこ頑張ってるしできるし。肩の長さのふんわりカール、二重のぱっちりな目。出世頭でカッコいい柳田くんとは釣り合いが取れる。

私は見た目も地味だし、仕事も地味だし、取り立てて女子力があるわけでもない。柳田くんとは釣り合わない。

別に……幼さななじみなだけで、意識はしてないつもりだけれど。


「もうすぐバレンタインだね。崇生が異動と知った本社の女の子たちがわんさか押し寄せてきそう!」
「そんなわけあるかよ」
「えーっ。去年いくつもらったっけ?」
「覚えてねーし。意味ないだろ、チョコなんて」


そう吐き捨てて柳田くんはちらりと私を見た。

去年、私は柳田くんにもチョコをあげた。義理チョコという代物。上司や同期、バレンタイン当日に会った取引先のひとにも小さなチョコをあげた。チョコを流し固めただけの小さなハート型のチョコ。

そっか。柳田くんには意味がないのか。同期と話してる最中に私を見たってことは、義理チョコなんて配るのはばかばかしいと私に言いたいんだろうか。

柳田くん……。
私、何を意識してるんだろう??

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