絶対領域
ダンッ!!
短い静寂を、力強い足音がぶった切る。
「おっまえ……!」
赤く沸いた鬼の形相で、オールバックの男の子が近寄ってくる。
正面までやってきて、勢いよく私の胸倉を鷲掴みにした。
え?え?
何?
「何が記憶喪失だ!」
「っ、」
喉の奥から吐き散らした叫びで、お互いの心臓が揺さぶられる。
なんて悲しそうに責めるのだろうか。
「総長が血ぃ流してるのは、他でもないお前のせいだってのに!」
総長?
もしかして、倒れてる黒髪の男の子のこと?
私のせいって、どういう意味?
「勝手に忘れてんじゃねぇよ!クソが!!」
「ひっ……!」
胸倉から両肩に、無骨な手が動く。
ギリ、と爪が食い込んで、小さな痛みが走る。
どれだけきつく言われても、思い出せない。
私は何を忘れているの?
私は何をしてしまったの?
でも、私が忘れてしまったから、彼は怒っているんだ。
あ、謝らなきゃ……。
「ご、ごめんなさ……っ」
「やめろ」
わざとらしく遮った、威圧的な低音ボイス。
誰かが強引に、肩を掴む手を引きはがしてくれた。