絶対領域
「その頃はまだ噂が流れ始めたばかりだったこともあって、“裏の世界”側の一部には、天使と悪魔の姿形や正体が知られていたらしいよ」
この噂は信ぴょう性がなくて、突飛な内容だ。
だから、だんだん都市伝説化していったんだろう。
今も昔も、裏の世界の人間がそこまで恐れている天使と悪魔って、一体……?
「紫は?」
「……へ?」
唐突に、翠くんに話を振られた。
ついとぼけた一音がこぼれたのは、しょうがない。
「紫には、憧れの人とかいないの?」
翠くんが変わったのは、天使という憧れの存在と出会ったから。
じゃあ、僕は?
僕が変わろうと思った、きっかけは……。
「ぼ、僕の憧れは、ユウ、かな」
きっかけは、ユウだった。
いい意味でも、悪い意味でも。
「い、いじめられてた頃、ユウとはクラスが違って学校じゃあんまり関わることがなかったけど、そ、外ではよく遊んでたんです」
幼なじみのユウとは、物心つく前から一緒にいた。
遊び相手は、いつもユウだった。
小学生になって、ユウ以外にも友達を作ろうとしたけれど、引っ込み思案なせいでなかなかうまくいかなかった。
反対に、ユウにはたくさんの友達がいた。
なのに、他の友達よりも僕を優先してくれた。
優しいユウに、どうしようもなく憧れた。
あんな風になりたい。
何度もそう願っては、叶えられずにいた。
「あ、遊んでる時間が一番楽しくて、大好きで……だから失いたくなくて。い、いじめられてることを、ずっと秘密にしてました」