絶対領域
「バンちゃんって……悪魔って、やっぱりすごいね」
ちょっとは厭【イト】われたり、嫌みを言われたりする覚悟をしていたのに、そんな仕草ひとつ表さない。
『そんな大したことない』と自分自身を嘲った俺を、認めてくれた。
ありふれた褒め方。
でも、なぜか、胸に響いて。
ふは、と口の端を和らげた。
「どうもありがとう、そして初めまして、天使さん」
「ふふっ。初めまして、こわーい悪魔さん」
「怖くないよ。味方には、ね」
やっと“悪魔”として会えた。
自己紹介できた。
随分と時間が経ってしまったな。
「……ひとつ、聞いてもいい?」
「もちろん。何?」
間髪入れずに聞き返せば、萌奈ちゃんは不思議そうに問いかける。
「どうして、今日、正体を教えてくれたの?」
当然の疑問だ。
俺だって、今日話す予定じゃなかった。
萌奈ちゃんは熱を出して、さっきまで寝ていたのに、今する話じゃないことくらいわかってる。
なんならこのまま打ち明けずにいようとしていた。
けれど、そうもいかなくなってしまった。
昨日の乱闘騒ぎのせいで。