絶対領域
今までのしん兄なら、あず兄に手伝わされても自分の力を過小評価して、臆していた。
だけど、今日は違う。
ばっさり注意して、皮肉っている。
成長、という表現が正確かはわからないけれど、確実にしん兄は変われてる。
「萌奈氏?なぜニヤニヤしているのだ?」
「嬉しくて」
「嬉しい?ワッツ?」
詳しくは教えない私に、オウサマは不思議そうにしていた。
和やかな空気感は束の間。
「おい、やべぇぞ!!」
「神亀の奴が絡まれた!」
「きゃあああっ」
不意に喧噪が響きだした。
繁華街の大通りのほうからだ。
「なんだ?喧嘩か?」
「神亀、って聞こえなかったか?」
あず兄はぐっと眉間にシワを寄せた。
数秒悩んだ後、オウサマを鋭く見据える。
「おい、凰!」
「いかがした?」
「ここで萌奈を守ってろ!」
「俺たちは様子を見てくる」
「神亀ってワードが聞こえちゃ、行かねぇわけにいかねぇからな」
あず兄、すっごく嫌そうだなぁ。
心内では「俺がここに残りたい」って葛藤してそう。
他人事のように傍観していたら、灰色の瞳が今度は私を捉えた。
「萌奈も、じっとしてろよ!いいな!?」
「わかったわかった。ここら辺でオウサマと仲良く待ってるよ」
「ここでデートの続き、すんじゃねぇぞ!?」
「しないよ」
秒で返答してやった。
そもそもデートしてないし。