絶対領域
俺の体重を支えきれずに、萌奈は壁にもたれかかりながら、ずるずると下に沈んでいった。
どちらも座り込んでしまっても、抱きしめ続けた。
お互いの温もりを求めていたかった。
『……知ったら、離れてくと思ってた』
スイッチを入れれば電気が点くにもかかわらず、薄暗い和室の隅で寄り添っていた。
もうすぐ夜が更けていく。
闇色の世界が、動き始める時間だ。
『だからずっと言えなかった』
『離れていかないよ』
腕を緩めれば、0距離だった俺と萌奈の間にわずかな空間ができた。
暗くても、近くにいるからだろうか。
萌奈の顔がよく見える。
ちょっとムッとした、可愛い顔。
『出会った時だって、半分冗談のつもりだったんだ。俺と逃げる覚悟あるか、なんてさ』
『だからあの時、しつこいくらい確認してきたんだね』
きっと、どうかしてたんだ。
俺も、萌奈も。
『俺と一緒に逃げてくれると思わなかったんだ』
殺すとか殺されるとか、そういうの無縁そうだったし。
怖がるか、そっちも冗談っぽく返すか。そのどちらかだと予想してたら、まさかの大はずれ。
しぶとく生きるだとか、そばにいたいとか。
正直、全然信じられなかった。