平凡女子ですが、トリップしたら異世界を救うことになりました
(どうしてこんなところに飛ばされたんだろう……なにも感じない……元の世界へ帰れる気がしない)

「サクラ、手が汚れる」

 寂しげな表情になった桜子の目の前にしゃがんだディオンは、地面についたままの手を持ち上げる。顔を上げた桜子の瞳は潤んでいた。

「つらい思いをさせてしまったようだ」

 桜子の手の甲へ、ディオンはそっと唇を持っていく。

「ここへそなたを連れてくるのは、勇気がいった。もしかしたら……元の世界へサクラが帰ってしまうのではないかと思い、ここが苦しくなった」

 ディオンは桜子の手を、自分の心臓へ持っていく。

 言葉にしたとおり、本当にディオンは悩んだ。いつの間にか愛してしまった異世界の娘が、この腕の中からいなくなってしまうことを考えると、身を切られるどころか、生きていられないほどつらくなるだろうと。

 ディオンは桜子を立たせた。

「私はもう、サクラがいない生活など考えられない」
「ディオンさま……」

(ここへ来たときは、ずっと帰りたいと思っていた。でも……でも、今はディオンさまから離れたくない……)

 桜子の目から涙がポロポロと頬を伝う。

「サクラ……元の世界へ帰りたいんだな」

 泣く桜子をディオンは誤解した。桜子の後頭部に手を当て、抱き寄せる。

「泣きたいだけ、思いっきり泣くんだ……そなたに嫌われても、私はそなたを手放せない」

 桜子はディオンの腕の中で、かぶりを振る。

「そう……じゃあ、私も……ディオンさまがいない場所なんて、考えられません」
「サクラ……」

 ディオンは胸を熱くさせて、桜子の唇を甘く塞いだ。

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