平凡女子ですが、トリップしたら異世界を救うことになりました
 翌日、ルキアノス皇帝からアシュアン宮殿に書簡が届いた。久しぶりにディオンに会いたいとのことだ。

「行かないわけには、いかないか……」

 書簡をイアニスに手渡し、ディオンは重いため息をつく。

「ダフネ姫の件もありますし、ディオンさまの身の危険はないかと思われます」
「身の危険はなくとも、ダフネとの婚儀を急かされるはずだ」

(愛する娘がいるのに、どうしてダフネ姫を娶れようか。ダフネのことはしばらく引き延ばさねば)

 ディオンは政務室を出て、桜子に会いに行った。しかし、後宮の桜子の部屋はもぬけの殻だ。

「どこへ行ったんだ……?」

 ディオンは後宮から宮殿への渡り廊下を歩く。そこへザイダと共に歩いてくる桜子を認めた。

「あ! ディオンさま!」

 桜子はザイダから皿を受け取って、中身をこぼさないように駆けてくる。

「それは……?」
「私の世界でいう、クッキーというものです。材料は私の世界にあるものと似たもので作っていて、意外と美味しく出来たんですよ。ディオンさまに召し上がっていただきたくて」
「甘い香りがする。食べてみよう」

 ディオンは丸いクッキーをひとつ摘まみ、口へ入れ味わうように咀嚼する。

「サクラ、とても美味しい。初めて食べる味だ」

 気に入ってくれた様子に、桜子はホッとして笑顔になる。

 その後ふたりは娯楽室でお茶を飲みながらクッキーを食べ、ディオンが奏でる曲を楽しんだ。

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