平凡女子ですが、トリップしたら異世界を救うことになりました
「やめてください! 約束は守ります!」

 女官のそばから逃げるように足早に離れた。その足で、宮殿の一階に住むカリスタの部屋へ向かう。

 カリスタの具合も心配だが、今のイヴァナ皇后つきの女官の言葉に胸騒ぎを感じていた。

 門から百メートルほどのところにある宮殿の出入口へ来ると、いつも立っているふたりの衛兵の姿が見えない。

(どうしていないの……?)

 ぞわっと背中に冷たい水を落とされたような感覚に襲われる。

 桜子は足元に視線を落として、辺りを見回す。草になにかが引きずられた跡がうっすらとあった。

 その後を追っていくと、植え込みの裏に、衛兵がひとり倒れていた。

「ひっ! ……し、死んでるの?」

 桜子は怖くて仕方なかったが、指先を衛兵の鼻に近づける。呼吸はしていた。

「大丈夫ですかっ? 起きて!」

 衛兵の身体を揺さぶるが、うっすらと目を開けるだけで反応が鈍い。そこで桜子はハッとなる。

「カリスタが!?」

 衛兵の腰にあった剣を鞘から引き抜き、カリスタの部屋へ駆けだした。向かう間にも、誰かいないか叫んで侵入者を知らせる。

 目的の部屋の扉は大きく開いていた。

「カリスタ!」
「サクラ! 来てはいけないよ!」

 部屋の中から、緊迫しているカリスタの声がした。

 かまわず中へ入ると、カリスタと黒ずくめの男がいた。カリスタは寝台の向こう側におり、侵入者とは距離がある。

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