平凡女子ですが、トリップしたら異世界を救うことになりました
 ルキアノス皇帝は、思っていた通りの厳めしい顔つきで、見るからに怖い人物だ。

 そして、桜子は後宮の湯殿へ連れてこられた。ここの湯殿は、アシュアン宮殿とはけた違いの豪華な作りである。

(上品な感じではなく、成金的な……)

 少し気が緩んだが、ピンチな状況であることには違いない。毒酒のついた衣装では生きた心地がしないので、湯浴みと新しい衣装はありがたい。

 女官は桜子と目を合わせないように全身を洗い、香油を塗り、純白の衣装に着替えさせようとした。

 純白の衣装は、ディオンとの一夜を思い出してしまい、嫌だった。綺麗な記憶のままでいたい。

「他の衣装はないですか?」
「え?」

 女官は桜子に初めて話しかけられ、驚いていた。

「純白は……嫌なんです」
「これしかありません」

 そっけなく返事をした女官は、衣装を桜子に着せていく。

 そして支度を終えた桜子は回廊を渡り、宮殿の中へ案内される。

 ルキアノス皇帝の元へ向かいながら、何度駆けだして逃げようと思ったことか。

(あんな人に抱かれるなんて……)

 桜子の祖父くらいの年齢だった。

(でも、私なんか取るに足らない女なのに、イヴァナ皇后を拘束するなんて……どうしてなんだろう……)

「こちらでございます」

 若い女官は静かに扉を示した。両脇にいた衛兵が扉を開ける。

 部屋に入る桜子の足は震えていた。

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