平凡女子ですが、トリップしたら異世界を救うことになりました
「サクラ、すまない。隣を歩くんだ。私がそうしたい」
「でも……本当に……部屋に戻ります! 失礼します!」
 
 桜子は深く頭を下げてから、ディオンの言葉を待たずに駆けだした。

 その後ろ姿を、ディオンは注視した。そして、控えているラウリとニコへと向きを変える。

「いい加減、あの娘に対して警戒を解くんだ。サクラは思慮深い。ここへ来てしまい、戸惑いながらも一生懸命に馴染もうとしている。それに術師ではないと警備兵たちは口々に言っていたではないか」
「ですが、エルマから、あの娘は殿下を誘惑していると……」

 妹のエルマから先日の話を聞いていたラウリだ。表面上、エルマは桜子の面倒を見ていたが、いまだに不快な思いを抱いている。

「エルマの話は誇張にすぎない。サクラは私から逃げていくばかり。私のほうが彼女を誘惑したいくらいなのに」

 ディオンの言葉に、ラウリとニコは驚きで目を剥く。

「で、殿下っ! なにを仰られているのですか!」
「サクラは私の保護下にいる。なにかあったらお前たちに責任を問うぞ。エルマにも伝えておけ」

 ディオンは茫然となっているふたりにかまわず歩きだした。


 
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