平凡女子ですが、トリップしたら異世界を救うことになりました
 廊下に倒れている桜子を見つけたのは、カリスタだった。桜子の好物の甘い生地で焼いた菓子を持ってきたのだ。

 もともと後宮へは、カリスタかエルマと、食事を運ぶ女官しか来ない。

「サクラっ!? いったいどうしたんだい!?」

 カリスタは倒れている桜子に駆け寄り、鼻に指を当てて息を確かめる。弱いが、呼吸はしていた。口の端に血がついているのを確認すると、カリスタの顔が歪む。

「誰かいないか!」

 カリスタは桜子の部屋へ入り、窓から叫ぶ。

 巡回中の衛兵三人がカリスタの声を聞きつけ、駆けつけた。

「医師とディオンさまを呼んでくれ! サクラが大変だと!」

 衛兵ひとりが残り、慌ただしく去っていく。
 

 カリスタと衛兵によって桜子は寝台に寝かされ、やってきた医師が容態を確認する。カリスタの他に、エルマも青ざめた顔で見守っている。

 そこへディオンがいつになく冷静な表情を崩して現れた。

「サクラ! なぜこんなことに!?」

 医師はディオンに深く頭を下げてから口を開く。

「毒を盛られたようです。幸い、量が少なく、大事に至りませんでした」
 
 山に咲く花からの毒だった。ほんのり甘いにおいがするのが特徴だ。危険な花で、ディオンが五年前に根絶やしにしたはずだった。


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