平凡女子ですが、トリップしたら異世界を救うことになりました
 深い青色の長衣を纏った姿は近寄りがたい。ディオンは楽器を持っていた。

「サクラ、起きていたのか。しかし、横になっていないといけない」

 ディオンは優美な足取りで寝台のそばへやってきた。

「どうした? 悩んでいるような顔をしている」
「……ディオンさま、犯人のこと――」
「その件は後日だ。今は身体を治すんだ」

 桜子を遮り、心配そうな瞳を向けるディオンだ。

「もう平気です」
「まだ顔色は戻っていない」

 ディオンの長い指が桜子の頬に触れる。触れた瞬間、桜子の心臓がドクンと跳ねる。

「横になって」

 今は話が出来ないと悟った桜子は、仕方なく横になる。

 ディオンは満足そうに口元に笑みを浮かべ、寝台から少し離れた椅子に腰を下ろし、楽器を弾き始めた。とても静かな曲調で、桜子を眠りに誘おうとしているようだ。

 いつもなら桜子の瞼が落ちてくるはずだが、今日は女官のことが気にかかるのと、睡眠をたっぷり取っているせいで眠くならない。

「その大きな目を閉じて」

 楽器を弾く手元を見ずとも弾けるディオンは今、アメジストの瞳で、横になっている桜子を見ていた。

「……眠れません」
「私が弾くと、眠くなるのでは?」

 前に寝てしまったことを持ち出され、桜子は当惑する。

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