平凡女子ですが、トリップしたら異世界を救うことになりました
「そ、そうなのですが……ずっと寝ていたので……」
「困ったな……。庭に連れ出すわけにもいかないし……」
 
 ディオンは立ち上がると、椅子の上に楽器を置いて、寝台へと歩み寄ってくる。ディオンの突然の行動がわからず、桜子はポカンと見ていたが、次の瞬間、身体を跳ねさせて起き上がろうとした。

「な、なんで横に……?」

 ディオンが桜子の隣に身を横たえたのだ。そして、飛び上がりそうになる桜子の身体を引き寄せた。

「こうしているから、眠りなさい」
「ね、眠れるわけがないじゃないですかっ。起きてください! 私はひとりで大丈夫ですからっ」

 守られるように腕枕をされている。

 桜子はディオンから離れようとするが、しっかり抱き込まれて動けない。

「おとなしくして。熱がぶり返す」
「そ、そんなことを言われても。放してくださいっ」

 ディオンに抱きしめられてしまい、全身が熱くなってくる。恋愛経験のない桜子にはいささかレベルが高い。

「目を閉じるんだ」

 おそるおそるディオンの顔を見ると、宝石のようなアメジスト色の綺麗な瞳と視線がぶつかる。

「からかわないでください……」
「からかう? そんなつもりは毛頭ない。そなたは可愛い人だ。恥ずかしがるところがくすぐられる」

 この国の女性は積極的で、女官でさえ豊満な身体でディオンを誘惑しようとする。

(恥ずかしがると……余計に? ……恥ずかしがらなければいいのね)

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