平凡女子ですが、トリップしたら異世界を救うことになりました
「おやすみなさい。寝ますから!」

 桜子は暴れる心臓を気にしないようにして目を閉じ、眠ろうと言い聞かせた。頭の上で、楽しそうな「くっ」という喉から絞り出すような声がした。

「いい子だ。ゆっくり眠りなさい」

 ディオンの静かな声は、眠くなかった桜子の眠気を刺激した。

 爽やかでフルーティーな香りを纏うディオンの胸で、緊張しながら目を閉じて動かないでいるうちに、桜子はいつの間にか眠りに落ちていた。


 
 次に目が覚めたとき、部屋にカリスタとエルマがおり、夕食を運んできたようだ。

 寝ぼけまなこでカリスタとエルマを認識したのち、ハッとなって自分の隣を見る。ディオンの姿はなかった。

(眠れないと思ったのに、寝ちゃったんだ……)

 ディオンの胸の中は守られているようで心地がよく、深い眠りに引き込まれたようだ。

「サクラ、夕食を持ってきたよ。私の分もあるから一緒に食べよう」

 カリスタは、桜子が毎日ひとりで食事をしているのを気の毒に思い、今日は自分の分も用意させていた。

「はいっ」

 カリスタも一緒だと言われ、桜子は笑顔で寝台から下りた。

 エルマは部屋を出ていき、ふたりで食事を始めた。今日の料理も豪華で美味しそうだが、日本食が懐かしくなってきていた。

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