平凡女子ですが、トリップしたら異世界を救うことになりました
「私を本気で殺すのなら、毒をほんの少しにせず、全部入れれば間違いなく死んでいたのに、どうして?」
「……あなたが殿下に好かれているのが嫌だったんです。警告のつもりが……殺すつもりなんて、まったく考えていませんでした!」
 
 ザイダはディオンに憧れを抱いていた。自分の女官の立場は知っていたし、みんなと同じようにいつも奏でられる音楽に聴き入っているだけで満足していた。
 
 それが、突然現れた娘をディオンが必要以上に気にかけるのが嫌で、今回のことを起こしてしまったのだった。
 
 桜子はザイダがほのかに抱いていたディオンへの気持ちを知って、入っていた肩の力が緩んだ。

「ディオンさまは、異世界から来た私を気の毒に思ってくれただけなんです」
「……身のほど知らずで……恥ずかしいです……」

 ザイダはうな垂れる。罪を償うのは当たり前だが、扉のところでぶつかったときに、引き返せばよかったと後悔していた。

「……サクラさま、本当に申し訳ありません! どのような罪でも償います!」

 ザイダはもう一度、心から桜子に謝った。

「わかりました」

 桜子は扉を開けて、廊下にいたニコに話し終わったことを告げた。

 少ししてディオンらが裁きの間に戻ってきた桜子は先ほどの席には座らず、ザイダの隣に立つ。その様子に、ディオンの形のいい眉の片方が上がる。

「サクラ?」
「ディオンさま、ザイダは深く反省しています。私を殺す気はなかったんです。だから罪に問わないでください」

 桜子の言葉に、ザイダを含め、その場にいた者は呆気に取られた。

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