No border ~雨も月も…君との距離も~
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「 おめでとうございます。 11週目に 入ってますよ。」

つり目の中年の女性医師は 白黒のモニターを見ながら言った。

彼女は 私の下腹でエコーをグリグリ回しながら もう片方の手で 何枚かまとめてセットされた紙を手渡してきた。

私は モニターに映し出された、小さな白い塊から 紙の方へと 視線を落とす。

大きく 書かれた “ 赤ちゃん ” という文字に 数秒……時が止まったかのように 身体が動かなくなった。

思わず、はっとして 息を吸うと ツンとする消毒の匂いに 胸がムカムカしてくる。

吐きそうで……吐けない。

確信した 身体の違和感に 戸惑いながらも、今度は胸が一杯で……言葉が出てこない。

赤ちゃん……って……

この小さな……塊……?

私は、もう一度 モニターを じっと見つめる。

小さな塊の中心が 微かに、チクチク…チク…と動いているのが 分かる。

「 ……生きてる……?」

「 ええっ。もう……ちゃんと生きてますよ。

ほら……この動いている真ん中、心臓っ。」

身体の全体が 心臓なのかと思うほど……小さな命は、身体いっぱいで 生きようとしているのが 見えた。

チクチク……チク。 チクチク……チク。

「 本当に……これが…赤ちゃんなの…。」

喜びが思わず声に出ると同時に、瞳からは 切なくて…息苦しい 涙が こぼれた。

「 どうしょう……。私…… 」

「 次の健診で 母子手帳を作りたいので、旦那さんにお話されたら……ここに……どうしました?

山城さん? 大丈夫? 」

「 ……私……産めない……。」

「 ……山城さん? 」

「 産めない……。 私、産めない。」


シン………

私、こんなに 愛しい存在に初めて 出合った。

新しい 小さな命。

私、こんなに 幸せを感じたことは初めてかも…。

シンの 赤ちゃん。



私は、また 尊く愛しい命の前で 立ち尽くしていた。

タクちゃんの命の前で 立ち尽くしていたのと 同じ。

独り……

愛しさに包まれながら……呆然と立ち尽くしていた。
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