エリート御曹司は獣でした
香織の横にしゃがんで机の縁に揃えた両手の指をかけた私は、疑惑に満ちた視線を向ける。


「私のビーフジャーキー、知らない?」

「は……?」


意表を突かれたような顔に、意味がわからないと言いたげな問い返しの声。

どうやら犯人は、香織ではないらしい。


それなら綾乃さんの単独犯行だろうかと眉を寄せつつ、私は香織に事情を説明した。


「机の引き出しを開けたらーー」


私は今、本気で困っている。

体も心も肉チャージを要求しているというのに、チョコレート菓子しかない。

このままでは肉のことで頭が一杯になり、仕事に集中できず、この前のようなミスを犯してしまうかもしれないのだ。


非常にゆゆしき事態なのに、香織は私の話に吹き出しそうになっており、慌てて口元を押さえて周囲を気にしている。

それから笑いをこらえてヒソヒソと、私に返答した。


「なにそれ、面白いいたずらだね。私が犯人だと思ったの? 違うよ。奈々子にチョコあげても喜ばないのは知ってるもの。私がすり替えるとするなら、次の肉パーティー用の特上カルビかな」

「じゃあ、犯人は綾乃さん?」

「綾乃さんはそんな子供じみたことしないでしょ。八重子も違うね。あの子はいたずらしてやろうと、自分から考えることはない」

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